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​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

ブラックな労働環境だと、優秀な先生ほど去っていきます。

​一緒にホワイトな労働環境に変えていきましょう。

 私は大学卒業から一貫して学習塾で働いてきました。学習塾での勤務経験は13年です(講師3年+教室長3年+人事3年+社長4年)。人事労務時代にはアルバイト講師の面接を500件以上、新卒中途面接を50件以上担当してきました。今では社長として学習塾を経営しています。人事としても社長としても他業種の方と採用に関してお話しする機会がありますが、学習塾の採用は他の業種よりも厳しいと感じています。その理由は3点あります。

大卒・大学生が募集の対象になるため、高卒・高校生でも働ける業種と比べると母数が少ない(内閣府の調査によると令和3年の大学進学率は約50%)。

❷夜が遅い仕事なので、正社員採用の場合は女性に敬遠されがち(❶×50%)

❸上記の条件をクリアできれば誰でも良いわけではなく、教えられるスキルと知識と自信がないと働くことができない(これを仮に50%とします)。

 これらの条件を分かりやすくしたものが下の図です(大学生のアルバイト採用の場合は❷の障壁がなくなるので条件は緩くなります。)

​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​
​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

 このように学習塾を取り巻く採用環境は厳しいので、「辞めてもまた新しい人を採用すればよい」という考え方では従業員を確保することがどんどん厳しくなります。それよりも、今いる社員・アルバイトを大切にすることが重要です。また、出産・育児を望む女性が働きやすい職場を作り、女性の先生が長く活躍できる塾にしていくことも大切です。そのためには、ホワイトな労務管理を行うことが必要です。ホワイトな労務管理を行うことで、今働いている従業員の満足度を高めて辞めにくくします。従業員の定着度が上がれば、求人市場へのアピールにもなります。

 逆にブラックな労働環境だと、優秀な人財ほど先に辞めていきますし、新しい人財を採用するのも難しくなります。優秀な先生ほど知識もあるので「この塾は法律に則った労務管理がされていない。」ということに気づくからです。そうならないために、学習塾の労務管理の落とし穴を知り、貴塾の発展に繋げていただければと思います。

​コマ給って違法なの?学習�塾の労務管理の落とし穴​

​問題❶:6時間以上働いているのに休憩を取らせていない。

 ​まず、一般的な職場と学習塾の勤務時間を比較してみましょう。下の図をご覧ください。学習塾はその業務の性格上、勤務時間がかなり特殊です。一般的な職場と同じように休憩時間を適用した場合、生徒たちがやってくる最も忙しい時間帯に休憩時間が来てしまいます。授業と授業の間に長い間隔が設定されている塾の場合は休憩を取りやすいですが、常に授業があり生徒がいる状況では、正直休憩を取りにくいです。また、学校が長期休みの夏季講習や春季講習の時期などには、正社員だけでなくアルバイトも一日に何コマも授業に入っていることがあるため、さらに休憩を取りにくくなります。

 しかし、労働基準法第34条では「労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない」と定められています。私の経験上、これを守れていない塾はかなり多いのではないかと思います​。

​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

​解決:6時間以上の労働で45分、8時間以上の労働で60分の休憩をとりましょう。​

​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

 ​解決策ですが、休憩時間に関しては法律に定められていることなので、「​6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間」の休憩を取るしかないです。また、実際に休憩を取っていないと後々トラブルに発展するので、「出勤簿上だけ休憩を取ったことにする」ようなことは止めましょう。さらに、休憩時間は労働から完全に解放されていることが必要なので、休憩中なのに生徒対応や電話対応をしないといけない状況では、休憩と認められません。

​ 従業員が休憩を取りやすくするために、小学生授業と中学生・高校生授業の間に1時間程度の空き時間を作ることは有効です。また、スタッフが2名以上いる場合は、休憩時間をずらして取ることもできます。なお、休憩は全従業員一斉に取らせることが原則です。休憩をずらして取らせる場合は、事前に労使協定を締結する必要があります。

 今まで休憩を取っていない塾の経営者さんからすると「それでは人件費に無駄が生じてしまうじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、休憩がない職場というのは異常です。しっかり休憩を取らせた方が従業員の満足度は上がりますし、授業のパフォーマンスも上がります。講師が良い授業・良い生徒対応をしてくれた方が生徒・保護者の満足度も上がるはずです​。

​問題❷:コマ給を時給換算したら最低賃金割れしている。

 学習塾のアルバイトでは「コマ給」という特殊な給与形態が導入されていることがあります。たとえば「1コマ90分1,800円」というような感じです。コマ給自体は違法ではありませんが、運用次第で違法になり得ます。

 労働時間とは、使用者の指揮監督の下にある時間をいいます。これは授業時間だけに限りません。使用者が指示して行わせている授業準備や授業後の報告も、労働時間に含まれます。たとえば、1コマ1,800円という労働契約のもと授業準備(10分)+授業(90分)+授業後の報告(10分)を行なっているとしたら、時給換算すると約981円(=1,800円÷110分×60分)になります。これが最低賃金を下回っているとしたら違法になります(最低賃金は各都道府県によって異なります)。

​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

​解決:準備・授業・報告の上限時間を設定して最低賃金割れを防ぎましょう。

​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

解決策としては次の2点が考えられます。

❶準備と報告の時間を減らす

上記の例を用いると、授業準備の時間を5分、授業後の報告の時間を5分にします。そうすると時給は1,080円(=1,800円÷100分×60分)となるので、2024年時点での全国平均最低賃金(1,004円)をクリアします。ただし、準備と報告の時間を減らしたら、本当にその時間通りに終わらせる必要があります。「本当は時間を超過しているけど出勤簿上だけ時間内に終わったことにしている」というのは違法です。

❷給与を上げる

​上記の例を用いると、コマ給を1コマ2,000円にすれば時給1,090円(2,000円÷110分×60分)となり、2024年時点での全国平均最低賃金(1,004円)をクリアします。​​

また、コマ給を採用している場合は労働条件通知書(雇用契約書)にこのように記載することが求められます。(厚生労働省作成のリーフレット参照)

​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

 もちろん上記❶​❷の方法を採用しても良いのですが、私はコマ給制は廃止した方が良いと思います。コマ給というのは、授業1コマに対して給与を支払うものであり、その前後にどれくらいの時間がかかるか分からないため、かなり曖昧な給与形態です。そのため、コマ給を採用しているだけで求職者から敬遠される可能性があります。賢い求職者はコマ給の仕組みを知っています。そして、準備や報告の時間を含めると塾の仕事は割に合わないこともよく知っています。

 私が塾でアルバイトを始めた時はコマ給の仕組みをよく説明されておらず、「準備や報告の時間には給与が出るんだろうか?」と不安でした。準備や報告の時間には給与が出ないことを知った時は「うわっ、全然割に合わないじゃん。辞めようかな…。」と思いました。今の自分だったら、コマ給制の塾のアルバイトは絶対にしないですし、友達や家族にも勧めたいと思いません。

 また、コマ給制は塾側にとっても労務管理が複雑になるというデメリットがあります。準備と報告はいつも一定の時間になるわけではありません。「ある日は報告が早く終わったけど、別の日は報告に時間がかかった」ということもあり得ます。そうすると毎日時給が変動するため、最低賃金を下回っているかどうかを毎日確認しなければなりません。これでは事務が煩雑すぎます。

 したがって、第3の解決策として「❸コマ給制を止めて時給制にする」を私はお勧めします。時給制にした上で、授業開始前の10分間は「準備」、授業終了後の10分間は「報告」を義務付けます。その上で、準備と報告の時間にも賃金を支払う。この方がスッキリとした制度になります。「準備が必要ないようなベテランの先生にも義務付けるのか?」というご意見もあるかもしれませんが​、どんなにベテランの先生でも準備をしない時と準備をした時を比べれば、準備をした時の方が良い授業になるはずです。私は16年塾の仕事をしていますが、いまだに授業前はしっかり準備します。

 なお、どんな方法を採用したとしても、労働時間を適正に把握するため、始業・終業時刻の確認・記録に当たっては、原則として、(1)使用者が自ら現認して、(2)タイムカード等の客観的な記録を基礎として、 確認・記録を行わなければなりません。

​問題❸:生徒が欠席した場合に無給で帰宅させている。

​解決:別の仕事を命じて休業手当分(平均賃金の60%以上)の賃金を支払いましょう。

 アルバイト講師を使用している個別指導塾の場合、「生徒が欠席したため担当してもらう授業がなくなってしまった」ということが時々あります。もしこの時に「じゃあ今日はもう帰っていいよ」と言って講師を帰してしまうと、労働基準法第26条違反になってしまいます。

労働基準法第26条(休業手当)

第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 「生徒が欠席したのは会社のせいではないのだから『使用者の責に帰すべき事由』に当たらないのではないか?」と思われるかもしれません。しかし、「使用者の責に帰すべき事由」の適用範囲は広く、使用者の故意・過失による休業はもとより、経営・管理上の障害による休業を含み、天災地変、もしくはこれに準ずる程度の不可効力による休業以外のものは、使用者の責に帰すべき休業に該当するとされています(ノースウエスト航空事件)。

​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

厚生労働省の見解によると、生徒の欠席による休業も「使用者の責に帰すべき事由」に該当するので、休業手当として平均賃金の6割以上を支払う必要があります。

 もちろん「全く働いていない人に賃金を払うなんて・・・」と思われる経営者のお気持ちもよくわかります。そういうときは、授業に代わる業務を命じ、それに対する賃金が平均賃金の6割以上を超えていれば、休業手当を別途支払う必要はありません。

 また、休業手当の算定の基礎となる平均賃金は以下のように計算します(厚生労働省リーフレット参照)

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​問題❹:時間外労働を把握していない、申請ルールが曖昧。

​解決:勤怠管理システムを導入し、残業は許可制にしましょう。

 学習塾の場合、1つの拠点に勤務している正社員数はそれほど多くありません。集団指導の場合は5〜6名、個別指導の場合は1〜2名ということが多いです。そして、少人数で運営しているゆえに出退勤管理がいい加減になってしまうことがあります。出退勤のタイムカードを打刻していない、休憩を取っていない、無制限・無許可で残業をしている、タイムカード上だけ退勤したことにして残業している。このような状況を私も現場でよく見てきました。

 特に時間外労働に関しては厳密な管理が必要です。一般的な職場と違って管理職や人事担当者の目が直接行き届かないので、悪意を持った労働者に悪用されてしまいます。これは私が実際に経験した事例ですが、ある労働者がタイムカードとは別に時間外労働の記録を残し、退職後に未払い残業代を請求してきたことがありました。もちろんこの会社でも正規の出勤簿を作っていました。しかし、この労働者はそれとは別に出勤簿を作り「本当はこんなに残業させられていた」と主張してきたのです。

​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

 このようなことを避けるために、改竄の可能性がなるべく低いデジタル出退勤管理を導入しましょう。また、ただデジタル化するだけでなく、確実に打刻させるようにしましょう。就業規則に「残業は許可制である」と記すことも必要です。さらに「勤務時間の前後に早くまたは残って職場にいることがあっても、それは労働ではない」ということも記しておいた方がよいでしょう。以下に就業規則の記載例を載せますので、参考になさってください。

​問題❺:週5日以上働いているのに有給を5日消化していない。

〜時間外労働に関する就業規則への記載例〜

第○条(労働時間の定義)

・労働時間とは、会社の指揮命令に基づいて業務を行う時間をいう。

・タイムカード、出勤簿等に上記の時間を超える時間の記載があっても、会社の指揮命令に基づかないものは労働時間として認めない。

・始業時刻とは、会社の指揮命令に基づき所定の場所で実際に作業を開始する時刻をいい、終業時刻とは、会社の指揮命令に基づき実際に作業を終了した時刻をいう。

第○条(時間外、休日および深夜労働)

​〜中略〜

・やむを得ず、所定時間外、休日および深夜労働(午後10時から翌日の午前5時の間の労働をいう)の必要があるとして、従業員がその勤務を希望する場合は、必ず所属長の許可を得なければならない。

・所定時間外、休日および深夜労働後は必ず所属長に報告しなければならず、所属長の許可や指揮命令のない所定時間外、休日および深夜労働は、その時間を労働時間としない。

​解決:受験後やテストがない時期に有給5日消化しましょう。

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 2019年4月から、年5日の年次有給休暇を労働者に取得させることが使用者の義務となりました(年次有給休暇が10日以上付与される労働者が対象)。業種、業態にかかわらず、また、正社員、パートタイム労働者などの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して、年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条)。以下の表の中で有給休暇の付与日数が10日以上となる労働者が対象です(厚生労働省リーフレット参照)

 通常の労働者、つまり正社員はもちろん対象です。また、パートタイム労働者でも週5日以上または週30時間以上働いている人は正社員と同じ基準で有給休暇が付与されます。さらに、パートタイム労働者のうち週4日以下働く人には「比例付与」が適用されます。例えば、週4日以上働いている人は継続勤続年数が3年6ヶ月に達すると有給休暇が10日付与されます。以上の人たちには年5日の有給休暇を取得させなければなりません。これに違反した場合、30万円以下の罰金が科されます。

​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

 学習塾の講師には通常、担当クラスや担当生徒が割り当てられるため、なかなか休みを取りにくいのが現状です。それでも、有給休暇5日以上取得させる義務は絶対的なものなので逃れることはできません。また「アルバイト・パートタイム講師に有給を取らせる必要はない」と思っている塾経営者の方もいますが、それも間違っています。特に週5日以上または週30時間以上働いているアルバイト講師には、年5日以上の有給休暇を取らせなければなりません。

 ではいつ有給を取らせるかということですが、やはり入試シーズン終了後の3月は取りやすいと思います。他には、定期テストがない7月上旬、夏休み直後の9月、2学期期末テストが終わった後の12月などは比較的有給を取りやすいでしょう。塾の仕事は1年間で業務の繁閑期がある程度決まっているので、対象者にいつ有給を取らせるかをあらかじめ決めておきましょう。

​学習塾の労務管理まとめ​

  1. 【求人】募集対象が大学生や大卒に限られる学習塾業界では、一般企業以上にホワイトな労務管理を行い、ヒトを大切にすることが求められます。

  2. 【休憩】労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩をとりましょう。小学生授業と中学生高校生授業の間を1時間空けたり、交代で休憩を取ったりしましょう。

  3. 【給与】準備と報告も指示して行わせているなら労働時間です。準備と報告の時間も含めて、時給が最低賃金を下回らないようにしましょう。コマ給を止めて時給制にするのも手段です。

  4. 【休業手当】生徒が欠席した場合でも講師を帰らせてはいけません。他の仕事を命じて休業手当(平均賃金の60%)以上の賃金を支払う必要があります。

  5. 【時間外労働】出退勤管理、特に時間外労働の管理は厳密に行いましょう。時間外労働は許可制であること、勤務時間前後に残っていてもそれは労働時間ではないことを就業規則に記しましょう。

  6. 【有給休暇】正社員と週5日以上または週30時間以上働くアルバイトは、年5日の有給休暇を取得させる義務があります。入試やテストがない時期に有休を取らせましょう。

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 ここまで学習塾の労務管理の『落とし穴』と『対策』をまとめてきましたが、いかがだったでしょうか?学習塾という特殊な労働環境では労務管理がうやむやになりがちです。いろいろな塾のお話を聞くと、かなりブラックな労働環境になってしまっている塾も多いようです。

 しかし、塾の先生や経営者は子どもたちのお手本になる存在です。そのお手本が法律を守っていないのでは、恥ずかしくて子どもたちを指導できないのではないでしょうか。また、先生たちが疲弊している塾では子どもたちもイキイキと勉強できません。ホワイトな労働環境の塾にすることが、生徒たちの成績アップや満足度向上に繋がるのです。そして、生徒数アップ・売上アップ・利益アップという形で会社に返ってきます。

​コマ給って違法なの?学習塾の労務管理の落とし穴​

 ここに挙げた対策を貴塾で行なっても良いのですが、早く・確実に行うには専門家である社会保険労務士の力を借りるのも一つの手です。当事務所は、代表の小川が社労士であるとともに学習塾も経営しておりますので、塾経営者様に寄り添った労務管理のサポートをできると思います。ぜひ貴塾発展のお力になれれば幸いです。お気軽にご相談ください。

送信ありがとうございました

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